Mathsのフィレンツェ旅行記

~ミラクル光るGli Uffiziの予約入場券~

2019年1月某日、AM8時過ぎ、私はイタリアの芸術の都、フィレンツェのS.M.Novella駅に降り立った。
駅前は、朝早くから観光客と移民と思しき人で溢れていた。物売りをしている移民の視線を一斉に浴びたような気がしたが、私の身なりを見るや否やその視線は消えていった。イタリア現地で調達した鮮やかな色のダウンジャケット、履き古したジーパン、スニーカー、スリにくそうな鍵とファスナー付きのショルダーバックを身にまとっていたためか、旅行慣れしていることが一目で分かったのだろう。

スマホを取り出し、目的地:ウフィーツィ美術館までの道のりを地図アプリで検索する。
・・・ん?
検索できない、あれ?電波は・・・?
げ!!!!!バリ0!!!たまにバリ1!!!!嘘やろ?!!
おい!!!WIND!!!てめぇ!!!!!この大都市で全っっ然使えねえじゃねえか!!!!TIMはこんなことなかったぞ!!!!
GOOGLE MAP!!お願い!!反応して!!!

・・・私の祈りは届かず、スマホが反応することはなかった・・・。
は~~~~~、しゃあないな、古典的やけど、分かんないときは人に聞きまくってなんとかしよう。かくして私の日帰りフィレンツェ旅行はスタートした。

おぼろげだが、Gli Uffiziまでの道のりは、前日確認した地図情報でなんとなく覚えている。川沿いに進めば突き当たるはずだ。さて、川はどっちだろう。
これまで仕事の都合で海沿いに住むことが多かった。あの肌にまとわりつくような潮風を浴びると、どの方角に海があるのかはなんとなくわかる。
しかし川の方角はよくわからない、が、おそらく川沿いは気温が低いだろうと予想し、気温が低いほう低いほうに向かってどんどん歩いた。

運よく橋に突き当たり、川を見つけることができた。
しかしこの橋は異様に混んでいる。写真を撮る人が多い。見たところ観光客ばかりのようだ、一体なぜだろう。そこでようやく昨日目を通したガイドブックの、ある写真を思い出した。
Ponte Vecchioだ。

ということは、ここにいる人たちはフィレンツェ観光をしている人達だ。
とある紳士を捕まえて、イタリア語でGli Uffiziの場所を聞いた。流ちょうなクイーンズ・イングリッシュで「ごめんなさい、私は英語しか話せません」と答えてくれた。英語でもう一度美術館の場所を尋ねると、無事に英語で美術館の場所を教えてくれた。

私は急いでチケットの列に並んだ。
予約入場券を買う機会を逃したため当日券を買う必要があるのだが、当日券の購入を求める列はすでに長蛇になっていた。進みも遅い、おそらく3時間以上はかかるだろう。
現在AM9時前、帰りの電車はCampo di Marte駅を19時半発だ。3時間並び、3時間鑑賞できれば万々歳だろう。その後はご飯を食べたり、他の観光地をまわったりしよう。それで行こう。

時刻は正午。当日券のカウンターに並ぶ列はようやく半分進んだところだった。
この寒い時期に、外で、こんなにも待たされるのか・・・。
待つことはわかっていたので、私は持参したパニーニやチョコレートを食べ、飢えをしのいでいた。
私の前はイタリア人の男女カップル、後ろはミラノから来た女子大生5人組だった。
カップルは典型的なイタリア人のカップルだったので、目のやり場に非常に困った。
後ろの女子大生たちにはアジア人が珍しいようで、
「前に並んでる女性は韓国人?中国人?日本人?」「全然わかんない」「授業でたまに中国人と一緒になるけど、彼女もこんな感じよ」「あの子いい子よね」「そうそう、あの中国人はいい子」「この人も中国人?」「じゃない?」「さぁ」
というような会話を終始続けていた。
物売りがバラを売りつけてきた。私は日本語で断った。
物売りは女子大生たちにもバラを売りつけようとしたが、途中で営業からナンパに切り替わった。
苦痛だよこの空間・・・。あとどのくらいかかるだろう。

そんなことを考えて下を向いていたら、突然声をかけられた。

“Excuse me, ma’am, but are you alone?”

顔を上げると、そこに立っていたのはアングロ・サクソン系のバックパッカー風の男性だった。イタリア語っぽい訛りを感じるが、非常に流ちょうな英語だった。有名なアウトドアブランドの服とバックパックを身にまとった、爽やかな人だった。なんとなく、「きちんとした人だな」という印象は受けた。

しかし、ここは外国、イタリア、しかも大都市フィレンツェ。
私は女性の一人旅をしている最中だ。きちんと警戒しなければ、どんな目にあうかわからない。返事をしていいものかどうか、私はすごく迷っていた。

彼は流ちょうな、しかし少し訛った英語で続けて説明した。
自分はイタリア人だが現在マルタに移住していること、
彼は同郷の、アメリカ在住の友達とフィレンツェで落ち合って旅行をしていたが、急遽友達に仕事が入り、アメリカに戻ってしてしまったこと、
そのため美術館の予約入場券が1枚余ってしまったこと、
誰か一人旅をしている人に、この券を譲れないかどうか探していること。
もしよかったらこの予約入場券をあげるから、一緒に予約専用の列に並ぼうと誘われ、こんなラッキーなことが本当にあるのかどうか、かなり思考を巡らせた。

近くにまだあの物売りがいたが、私は英語を喋れない設定を捨てて、
“Yes, I’m alone. But are you sure? Is that ticket really valid?”
と彼に質問した。
彼は”Of course! Take a look!”と予約入場券を見せてくれた。確かに今日の日付、指定時間は12時15分、名前や性別等は載っていなかった。券を持っていれば入れるようだ。
“It’s already 12:15, so we should get hurry, if you want it.”

その言葉を聞いて、普段旅先で知らない人についていくことは絶対にないが、”OK, Let’s run!”と答えてその人について行ってしまった。

彼についてGli Uffiziの中庭を走ったら、その先には確かに予約専用の入り口があった。彼は「イタリアは観光資源が豊かな国なのに、沢山の観光客をきちんと処理できないところがダメなんだ。せっかくのビジネスチャンスなのに」と、祖国についてボヤキながら走っていた。そう思うイタリア人はやっぱ外に出ちゃうんだなぁと思った。
そしてすぐに予約専用の入り口にたどり着いた。
彼が「それじゃバイバイ!Gli Uffiziをお互い楽しもう!」と別れを告げ・・・ようとしたところで、腕をつかんで引き留めた。
「ちょっと待った!お金は!受け取ってください!!お名前も聞かせてください!!」
「いいよ!せっかく遠くから来たのに、あんなに長い時間待たされていたんだから、気にしないで」
「遠くから来たのは、あなたもあなたの友達も一緒ですよ」
「僕の友達も、自分の予約入場券が一人の日本人女性を楽に出来たのなら、きっとそれだけでAll OKだよ」
と言って去ってしまった・・・。名前は聞いたけど長くて忘れてしまった・・・、興奮していてメモするのも忘れた。

Ma che fortuna!!!
こんなラッキーなことがあるのか!!!自分でも信じられない!!!!
私は心に固く誓った、このご恩は必ずpay it forwardすることを。
日本に来てくれた観光客には親切にしなきゃいけないな。

Gli Uffiziは3時間以上全然観られる美術館、だったが、超絶混んでいたので、じっくり作品を鑑賞することは出来なかった。生で見た「ヴィーナスの誕生」は最高だった。実物は写真では見られない輝きを放っていた。

その後当初の計画通り、遅めの昼食をPiazza della Signoriaのレストランでとった。店員さんおススメの、トスカーナ州のご当地パスタを食べた。うーん、観光客向けのパスタだなぁ・・・、まぁまぁ美味しい。

腹ごしらえをして、Officina Profumo-Farmaceutica di Santa Maria Novellaへ。聞き込みをしつつ、Santa Maria Novellaの買い物袋を手に下げた人々が来た方角へ行ったら無事発見!
世界最古の薬局、Santa Maria Novellaの本店!!!

ここのパチュリーのオーデコロンが大好きなのだよ~買い溜めするぞ~
え?!120ユーロもするの?!日本で買うのと変わらなくないか!?
よーし、ハーブティーと石鹸を買おう、妹へのお土産用に・・・。

少し時間が余ったので、Basilica di Santa Maria Novellaも見た。絵画もステンドグラスも綺麗だった。

Campo di Marte駅前のバールで最後に小腹を満たそうとしたのだが、カプチーノ1杯を英語で頼んだら、20ユーロ請求された。
“Allora lo cancello.”とイタリア語でキャンセルしたら、冗談だよ!!本当は1.5ユーロ!!と言われて少し腹が立った。
このバール、こんな観光地のど真ん中でこんなサギまがいなことしてんのかよ、と悪態をつきたくなったが、店員のバリスタがとにかく話しかけてくる。
イタリア語を話すアジア人は珍しい、どこから来た?日本?3月に年末のお祭りやる国か?それは中国?日本は違うのか?
日本と中国は一応文化が違うよ、同じに見えるだろうけど・・・とテキトーに答えて、さっさとカプチーノを飲み干し、おまけでくれたクッキーを平らげて駅に逃げた。

駅には割とギリギリめについたが、電車が1時間遅れていたのでNo problem!さすがイタリアだな!想像してたけど!!
電車に乗って15分、ようやくWINDの電波がきちんと入った。もう二度とWINDは使わねぇ。

フィレンツェは素晴らしい街だった。1泊すれば良かったな。
この街は英語かイタリア語が話せれば、スマホがなくても案外何とかなる街だった。裸一貫のストロングスタイル一人旅だったわ・・・
当分イタリアに遊びに行く時間はとれなさそうだけど、いつかまた行きたい。イタリア、できるだけ早く。

MathsのXX通信